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損をしないレンタル回数を考える「スキーレンタル問題」

hero-2023-06-28

スキーやキャンプなどのレジャーに行く際、スキー板やテントを借りることはよくある話です。
そんな時に「何度もレジャーに行くならそれらのグッズを買った方が長期的には安く済むのではないか」と考えたことはありませんか?

もしレジャーに行く回数が決まっているならばこの問題は非常にシンプルですが、 未来のことは分からないものです。

本記事では「スキーレンタル問題」として知られる、将来的に何回レジャーに行くかは分からないという前提のもと、 借り手の立場として最も損をしない購入タイミング(レンタル回数)を探る方法を紹介します。

1. スキーレンタル問題

スキーレンタル問題は、オンライン最適化問題の一種です。 オンライン最適化とは、入力が逐次的(オンライン)に与えられるような問題を扱う最適化問題のことです。
逆にオフライン最適化では、全ての入力が一度に与えられた上で、最もコストが低くなるような解を探す問題を扱います。

スキーレンタル問題の例として以下のような事例を考えます。 まずスキー板のレンタルと購入料金がそれぞれ以下の表のようになっているとします。

表1. それぞれの料金
金額
レンタル(一回当たり)1 万円
購入5 万円

この時、何回スキーをしに行くかが分かっていれば、以下のようにスキー板をどのタイミングで購入すべきか判断することができます。

  • 2 回スキーに行く
    • 1 回目に購入 => 合計支払い額: 5 万円
    • 2 回ともレンタル => 合計支払い額: 2 万円 (一番お得!)
  • 7 回スキーに行く
    • 1 回目に購入 => 合計支払い額: 5 万円 (一番お得!)
    • 4 回レンタルして 5 回目に購入 => 合計支払い額: 9 万円
    • 7 回ともレンタル => 合計支払い額: 7 万円

しかし実際は将来的に何回スキーに行くかは分からないため、どこのタイミングでスキー板を購入すれば良いか判断が難しいです。

スキーレンタル問題では、スキーに行く回数ごとに「最も損をする選択をした場合の損失(最大損失)」を定量化します。 そして、将来的に何回スキー行くとしても最大損失が小さくなるようなレンタル回数を見つけることを目指します。

つまり、最も得する購入タイミングを見つけるというよりも、損したとしても最も損が少ない購入タイミングを見つけることを目的とします。

2. スキーレンタル問題における「損」を定義

スキーレンタル問題では、「損 = 実際に支払った金額 / 最も効率的に支払った時の金額」と定義します。これを競合比と呼びます。
計算例として、「スキーに 5 回行った時、3 回レンタルして 4 回目以降は自分で購入した板を使う」場合、競合比は以下のようになります。

競合比 = (レンタル料金 * レンタル回数 + 購入料金) / 購入料金
= (1万円 * 3 + 5万円) / 5万円
= 1.6

競合比は 1 以上の数値を取り、その値が小さいほど損が少ないと考えることができます。

3. 競合比で購入タイミングを比較する

表 1 の料金では、「スキーに行く回数」と「購入タイミング」の組み合わせに対する競合比は以下の表 2 のようになります。 それぞれの「購入タイミング」に対する「スキーに行く回数」のように、表を縦方向に見ると競合比の値をイメージしやすいかもしれません。

例えば、購入タイミングが1の列を上から見ていくと、スキーに行く回数が増えるほと競合比が小さくなり損失が少なくなります。 5 回以上スキーに行くと購入費の元が取れるので、競合比は 1 になっています。

表2. 競合比表

スキー板の購入後はコストが発生しないと仮定すると、それぞれの「購入タイミング」に対して最も競合比が高いのは、赤色で示した値となります。 その中でも、最も低い値となるのは、購入タイミングが 5 回目の時の 1.8 です(青色の丸印)。

これは、表 1 の条件下では五回目に購入した場合の競合比は最悪でも 1.8 以下となることが保証されることを意味し、他の購入タイミングにおける最悪ケースよりも最大損失が 少ないと考えることができます。

例えば購入タイミングが 1 回目の場合と比較すると、最悪ケースの競合比は 5(購入後に一度もスキーに行かないケース)となり、1.8 と比べて大きな損失が 発生する可能性があります。

まとめ

本記事では、最大損失を小さくする購入タイミングの選びかたとして、「スキーレンタル問題」を紹介しました。

実はスキーレンタル問題は、スキーに行く回数が全くわからないなど、現実よりも限定的な条件でモデリングされています。

実際は、何回くらいスキーに行くかを想像しながらレンタルか購入するかを検討したり、何回かはいろいろな商品をレンタルしてスキー板を比較したりといった 不確実性が含まれます。 これらの不確実性を確率分布としてスキーレンタル問題に組み込んだ乱択モデルが存在するので、また別の記事として紹介したいと思います。

参考文献

  1. オンライン最適化入門
    • 関西学院大学: 藤原 洋志 (参照日: 2021/06/28)
  2. オンライン最適化の競合比解析
    • 東京大学 組合せ最適化セミナー: 河瀬 康志 (参照日: 2021/06/28)